ビートルズってロシア人? Episode 7
僕が中学1年生だった当事、LPの値段は2,500円であった。そのときの僕の毎月のお小遣いは正確には記憶していないが、その後お小遣いは毎月500円、その他にビートルズのLPを2ヶ月に1枚買ってもいい、ということになったことは記憶している。
さぁ、「イエスタデイ」だ。イエスタデイはビートルズで1番売れた曲だ(前回に続き訂正だが1番売れたのはHey Judeである)。先生が「いい」と言うんだからいい曲に違いない。先生は「鳥肌が立った」と言っていた。当事は、先生の言葉は「神託」並みに重みがあった。先生が嘘を言うはずはない。それに、1番売れたということは1番いい曲だからに違いない。絶対にOb-La-Di,Ob-La-Daなんかではびくともしない激しいビートの曲なんだろう。そう。当事の僕の辞書には「バラード」なんて4文字はなかった。「いい曲=激しいビート」と思い込んでいた。
とある日曜日、僕は2,500円を持って商店街のレコード屋にYesterdayが収録されているLPを買いに行った。え?2,500円では消費税が払えない?これだから人間の記憶とは恐ろしい。消費税なんてものは当時はなかったのだ。消費税が導入されたのは、その10年後の話である。
正直、どのLPにYesterdayが収録されているか皆目見当が付かなかったが、何と言ってもビートルズで1番売れた曲だ(違う!1番売れたのはHey Jude!)。店員に聞けばもちろん知っているだろう。
「すみませーん。ビートルズのLPで『イエスタデイ』が入っているのが欲しいんですけど」
「『Yesterday』?あー、だったら多分前期の傑作集かな。一緒においで。
はい、これですよ」
そう言って差し出されたLP・・・。
なんと、あの鼻の穴が持っていながら聞かせてくれなかった『赤』じゃないか!
どうしよう。
鼻の穴が持っているんだから、わざわざ買わなくても、あいつに聞かせてもらえばいい。テープにダビングすればいいだけのことだ。なんかもったいない、買うの。
しかし、当事の僕は、よく言えば几帳面、悪く言えば融通の利かない男で、一度決めたスケジュールを曲げることを病的なまでに嫌う子供であった。
その日のスケジュールは「『イエスタデイ』が入っているLPを買うこと」だ。
そのために、わざわざ学生服まで来て商店街に来たんだ。
そうそう、信じられない話だが、当事の僕の中学では、父兄同伴でない場合、商店街に行くときには学生服の着用を義務付けられていたのだ。
そして几帳面な僕は、もったいないという気持ちを押し殺して、スケジュールどおりに行動することを選択した。
「わかりました。これ買います」
そしてレジに向かい、2,500円を差し出すと・・・
「あの、これ2枚組なので2,500円じゃお金足りませんけど」
な、なんと絶望的なお言葉!その日の僕のスケジュールでは、「イエスタデイ」が入っているLPを買わなければならないのだ!
しかし、「お金が足りないために、お金を取りに一度家に戻って、再びレコード屋に来る」というスケジュールは残念ながら立てていなかった。
しかるに、その気になれなかった。
ここが、所詮中学1年生の頭脳であるが(いや、単に僕が馬鹿だったのか?)、『赤』が前期の「傑作選」であるなら、前期のLPをくまなく探していけば、「イエスタデイ」が入っているLPがあるはず。しかし、こうした思考は当事の僕にはまだできなかった。「イエスタデイ」は『赤』にしか入っていない曲、と思い込んでしまった。
どちらに転んでもスケジュールの変更だ。あー!もうどうでもいい!そうだ、一層のことビートルズの最初のLPを買うことにしよう。もう、いいや。それでいいや。
几帳面な人間とは、ひとたび予期せぬことが起きるとこうももろいのか、しかし。
そして、① というラベルが貼られている「Please Please Me」を2,500円払って手に取った。もうやけくそである。
その日の夜に、「音楽を聴いて鳥肌が立つ」という人生初の体験をすることなど、家路に急ぐ僕には知る由もなかった。
